コラム
- 2021.03.29
- 正しい遺言書の書き方とは?無効にならないための5つのポイント
遺言とは一般に、故人が自分の死後のことについて言い残した言葉を言います。ただし、遺言に法律上の効力を持たせるには、単に言い残しただけでは足りず、民法で定められた方式に則った「遺言書」を作成しておかなければなりません。
ここでは、法律上効力を持つ正しい遺言書の書き方についてわかりやすく説明します。本記事を読んで、遺言書が無効にならないためのポイントをしっかり押さえておいてください。
遺言書を書く前に!遺言の種類について
民法では遺言書の種類がいくつか定められていますが、通常使われる遺言の種類は、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つです。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 | |
概要 | 遺言者が遺言の全文、日付、氏名を直筆で書き、押印して作る遺言書(財産目録はパソコンで作成可) | 遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公正証書という公文書の形で作成してもらう遺言書 | 遺言者が作成し、封をした上で、公証人に遺言書の存在のみを証明してもらう形で作成された遺言書 |
メリット | ・どこへも行かず自分で簡単に作成できる ・遺言書の存在や内容を秘密にできる |
・紛失や改ざんのリスクがない ・形式的に無効になる心配はない |
・紛失や改ざんのリスクがない ・遺言書の内容を秘密にできる |
デメリット | ・紛失や改ざんのおそれがある ・作成方法を間違えると無効になる ・検認が必要 |
・手間や費用がかかる ・遺言書の内容が証人にわかってしまう |
・遺言書の存在を秘密にできない ・手続きが面倒 ・検認が必要 |
遺言書の書き方(自筆証書・公正証書・秘密証書)
通常使われる3種類の遺言書について、作成方法を知っておきましょう。
自筆証書遺言の書き方
自筆証書遺言は、自分でペンなどを使って紙に書くだけですから、簡単に作成できます。
ただし、法律上の要件をみたしていなければ無効となってしまうことに注意しておかなければなりません。
自筆証書遺言の書き方のポイント
自筆証書遺言を書くときに特に押さえておきたいのは、次の3つです。
①全文を自筆で書く
自筆証書遺言は、全文を直筆で書く必要があります。書き間違えた場合、修正液などは使えません。
一から書き直すか、民法上のルールに従って加除変更を行う必要があります。
なお、2018年の相続法改正により、遺言書に添付する財産目録についてはパソコンでの作成が認められるようになりました。
不動産については登記事項証明書を、預貯金については通帳の写しを財産目録として添付してもかまいません。
②日付を書く
自筆証書遺言には作成した日付を書いておかなければなりません。
日付は具体的に特定されてなければならず、「令和○年○月吉日」といった記載は無効です。
③署名・押印をする
遺言書には姓、名の両方を手書きで署名し、押印します。押印は実印でなく認印でもかまいません。
スタンプ式の印鑑(いわゆるシャチハタ)は無効ではありませんが、トラブル防止のために避けた方が無難です。
遺言書が複数枚にわたる場合、割印は不要とされていますが、改ざん防止のために割印をした方がよいでしょう。
なお、パソコンで作成した財産目録の各頁(両面の場合には両面とも)には署名押印しなければならないことになっています。
自筆証書遺言は紛失や改ざんのリスクがある
自筆証書遺言は自分で簡単に作成できますが、紛失したり改ざんされてしまったりするリスクがあります。
また、せっかく書いても亡くなった後に発見されずに終わってしまう可能性もあります。
なお、2020年(令和2年)7月より自筆証書遺言を法務局に預けられる制度が開始しています。
自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、紛失や改ざんのリスクを防止できます。
公正証書遺言の書き方
公正証書遺言を作るときには、証人2名の立ち会いのもと、公証人に遺言の内容を伝えます。
公証人が筆記した遺言書の内容を遺言者と証人が確認し、全員が署名押印して遺言書を完成させます。
公正証書遺言作成の流れ
実際に公正証書遺言を作成する流れは、次のようになります。
①遺言書の内容の打合せ
公証役場に連絡し、必要な書類などを提示した上で、公証人と遺言書の内容について打ち合わせをします。
②遺言書の原案の作成
打ち合わせた内容をもとに、公証人に遺言書の原案を作成してもらい、間違いがないかを確認します。
③公証役場での手続き
あらかじめ予約した日時に証人2名と一緒に公証役場に出頭し、遺言書の読み合わせをします。
間違いがないことを確認し、遺言者、証人各自が署名・押印します。
病気などで公証役場に出頭できない場合には、公証人に出張してもらって公正証書遺言を作ることもできます。
公正証書遺言は形式面で無効になるおそれがない
公正証書遺言は法律の専門家である公証人に作成してもらうため、形式面で無効になるリスクはほとんどありません。
公証役場では本人確認も行うため、別人が勝手に遺言書を作成するような心配も無用です。
ただし、遺言者が認知症でも公証人にはわからないことがあり、このような場合には遺言書が無効になってしまうリスクがあります。
秘密証書遺言の書き方
秘密証書遺言は、実際にはあまり使われていません。大まかに、どういうものかを知っておきましょう。
秘密証書遺言作成の流れ
秘密証書遺言を作る場合には、次のような流れになります。
①遺言書の作成
まず、自分で遺言書を書きます。
遺言書は必ずしも自分で手書きする必要はなく、他人に書かせたものやパソコンで作成したものでもかまいません。遺言書には押印が必要です。
②封をする
書いた遺言書に封をします。通常は封筒に入れますが、遺言書自体を貼り合わせて封じてもかまいません。
封をしたら、遺言書に押したのと同じ印鑑で封印します。
③確認
遺言者は公証人、証人2名の前に封をした遺言書を提出し、自分の遺言であること、及び筆者(他人に書かせた場合にはその人)の氏名、住所を述べます。
④遺言者と証人による自署名押印
公証人が遺言書の提出日と③で遺言者が述べた内容を封紙に記載し、これに遺言者と証人が各自署名押印します。
秘密証書遺言は発見されないことがある
秘密証書遺言は公証役場に保管されるのではなく、持ち帰ることになります。
そのため、秘密証書遺言を作成しても、保管場所によっては発見されないおそれがあります。
秘密証書遺言として無効でも自筆証書遺言として有効なことも
秘密証書遺言の要件をみたしていない場合でも、自筆証書遺言としての要件をみたしていれば、有効な自筆証書遺言として扱われることがあります。
遺言書が無効にならないための5つのポイントとは
せっかく遺言書を作っても、無効となれば意味がありません。遺言書を無効にしないために、次の5つのポイントを意識しておきましょう。
【ポイント①】法律で定められた作り方を確認する
遺言書は意味が通じればいいというものではなく、法律で厳格にルールが定められています。遺言書を書く前に、遺言書のルールについて確認しておきましょう。
特に、自筆証書遺言を書く場合には、書き方に気を付けないと無効になってしまうポイントがいくつもあります。法律は改正されることもあるため、最新の法律を確認することが重要です。
【ポイント②】公正証書遺言を作成する
遺言書を作成する場合、安全性や確実性が最も高いのが公正証書遺言です。
公正証書遺言を作るには費用や手間がかかりますが、その分、遺言書が無効になる可能性はきわめて低くなります。
遺言書はできれば公正証書遺言にして残しましょう。
【ポイント③】できるだけ早く対処する
認知症になれば、遺言する能力がなくなることがあります。
たとえ公正証書遺言を作っていても、作成時点で認知症だったことが明らかであれば、遺言書が無効になりかねません。
高齢になると、どうしても認知症になるリスクが高くなります。
遺言書作成を考えているなら、できるだけ早く対処するのが賢明です。
【ポイント④】遺留分に注意する
相続人の中には相続財産に対し、遺留分という最低限の取り分を持つ人がいます。
遺留分を侵害する遺言も直ちに無効ではありませんが、相続人が遺留分の取り戻しを請求する可能性があります(遺留分侵害額請求)。
遺言書を書く場合には、相続人の遺留分に配慮した内容にするか、あらかじめ相続人と話し合っておくことも大切です。
【ポイント⑤】専門家に相談する
遺言書の書き方でミスをすると、無効になってしまうリスクがあります。
また、遺言書を書くときには、形式面だけでなく、遺留分や相続税にも気を付けておかなければなりません。
遺言書を作成する際には、専門家に相談し、内容について確認してもらうのがおすすめです。
実際の遺言書の文例
以下、よくある遺言書の文例をいくつかピックアップしました。
実際には、財産の特定が難しいケースや、相続人が先に亡くなる可能性が高いケースなどもあると思います。細かい書き方については、専門家に相談するようにしましょう。
不動産を特定の相続人に相続させる遺言
第○条 遺言者は、遺言者の有する下記の土地及び建物を、長男A(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる。 ②建 物 |
妻に全財産を相続させる遺言
第○条 遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、妻B(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる。 |
遺言執行者の指定
第○条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、次男Cを指定する。 |
遺言の書き方について専門家に相談したい方へ
相続や遺言に関する相談は、弁護士、司法書士、行政書士、税理士などたくさんの専門家が扱っています。
遺言書を作成したい場合、どこに相談すればよいかだけでも迷ってしまうことが多いのではないでしょうか?
それぞれの専門家で、できる業務の範囲は違ってきます。
たとえば、不動産の相続が発生したときの名義変更手続きは司法書士に、相続税に関する相談は税理士にしなければなりません。案件の特性を見て、相談先を選ぶことも必要です。
遺言書についてどこに相談したらよいかわからない場合には、事案にあった専門家をご紹介しますので、お気軽にお問合せください。