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コラム

2021.03.29
家族か専門家か?成年後見人には誰がなれる?

認知症などで望ましい生活が送れなくなった時、当人を様々なリスクから守り、安全に生活できるように支援するのが成年後見制度です。

法律面の様々なサポートや財産管理など、本人が生活を維持できるように支援事務を行うのが「成年後見人」の職務になります。

本人にとってはもちろん、その家族にとっても、誰が成年後見人になるのかは重要な問題です。

この点で現行の制度では柔軟性がなく、デメリットとして挙げられることが多いのも事実です。

本章ではどのような人物が成年後見人になるのか、実情を詳しく見ていきます。

欠格事由のある人は、成年後見人になれない

最初に、成年後見人になることができない人の条件を押さえておきます。

重要な職責を担う成年後見人については、民法上で欠格事由が規定されています。

欠格事由に該当する者は成年後見人になることはできないので、以下で見てみましょう。

一 未成年者
二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
三 破産者
四 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
五 行方の知れない者

上記「二」だけ少しわかりにくいですが、これはかつて成年後見人や保佐人、補助人として活動していて、何か悪さをするなどして裁判所から解任された者、という意味です。

その他は、成年後見人としての職務を担う能力が確保できない者や、成年被後見人となる者に不利益をもたらす可能性のある者などが挙げられています。

以上が成年後見人になれない者となりますが、逆に言うと上記以外は誰でもなれる可能性があるということです。

弁護士などの資格を有することが条件となるわけではありませんし、何かの職業経験が何年以上などの条件が付されることもありません。

あえて条件を挙げるとすれば、「本人の支援事務を適切に遂行できるかどうか」で、家庭裁判所はこの点を考えて成年後見人を選任します。

家族が選任されることもありますし、弁護士などの職業人が選任されることもあります。

誰が選ばれるかは家庭裁判所に決定権があり、最終的に誰が選ばれるかは申し立ててみないと分かりません。

この点を問題視する意見が多いのも事実ですが、現状では根本的な制度改正には至っていません。

次の項では家族が成年後見人になれないケースについて見ていきます。

家族が成年後見人になれないケース

裁判所では、家族が成年後見人に選ばれないのはどんなケースか一例を公表しています。

1親族間に意見の対立がある場合
2本人に賃料収入等の事業収入がある場合
3本人の財産(資産)が多い場合
4本人の財産を運用することを考えている場合
5本人の財産状況が不明確である場合
6後見人等候補者が健康上の問題などで適正な後見等の事務を行えない、又は行うことが難しい場合

まず申立人が推薦した成年後見人の候補者について、他の家族で反対している者がいる場合は、推薦された人物の適性に疑問を持つことになり、第三者が選ばれる可能性が高くなります。

次に、本人に資産が潤沢にある場合はこれを家族が使い込んでしまうリスクがあること、またその資産をもって第三者の成年後見人の報酬を支弁できることから、本人の財産保護を考慮して家族以外の者が選ばれる可能性が高まります。

裁判所にもよりますが、本人の流動資産が概ね1千万円を超える場合は第三者の成年後見人が選ばれる可能性が高くなります。

また本人の財産状況を正しく把握できていない、推薦された人物が病気をかかえていて後見事務の遂行に支障がありそうな場合なども、第三者後見人が選ばれる可能性が高くなります。

なお上記はあくまで一例であって、上記に該当しない場合でも家族以外の者が成年後見人に選ばれることはあります。

親族後見人は全体の約21.8%

では実際のケースで親族が後見人に選ばれる事案はどれくらいあるのかというと、令和元年12月現在の最新の報告ではわずか21.8%程度(前年は約23.2%)となっています。

親族以外で選任された成年後見人は司法書士が最も多く、次いで弁護士、社会福祉士、市民後見人などが続きます。

詳しくは「成年後見関係事件の概況―平成31年1月~令和元年12月-」で確認できます。

上記のうち「8 成年後見人等と本人との関係について(資料10)」をご参照ください。

親族後見人の中では子が過半数

前項で見た資料では、親族が後見人になったケースで、その内訳も確認することができます。

親族の中では本人の子が選任されるケースが圧倒的に多く、半数以上を占めます。

次いで、その他親族、兄弟姉妹、配偶者、親が続きます。

本人は高齢になっていることが多いので、年齢的に近い兄弟姉妹などよりも、若く体力がある本人の子が選ばれることが多いようですね。

親族が後見人に選ばれるために

上で見たように、数字の上では家族親族が後見人に選ばれる確率は低いと言わざるを得ません。

しかし、家族が選ばれないなら成年後見制度を利用しないなど条件付きで申し立てることはできないので、利用を決意したのなら、できるだけ親族が選ばれやすくなるように工夫するしかありません。

ポイントとしては、裁判所に「この人なら後見人の職務を任せてもいいだろう」と思わせるためにどのような工夫ができるのか、という視点を持つことです。

時間と手間をかければ親族が後見人に選ばれる可能性をある程度高めることができます。

どのような工夫ができるか以下で見ていきましょう。

①家族の同意書をとる

成年後見人の選任申し立て時に提出する書類の中には、「親族の同意書」という書面があります。

これは本人が亡くなった時に相続人となる推定相続人の方に書いてもらう書面です。

成年後見人が付けられることや、推薦されている候補者が後見人になることについての同意を示す書面です。

推定相続人の同意書が無いと「親族の総意で推薦されていない」と考えて、推薦した候補者が選ばれにくくなります。

ですから推定相続人とよく話し合い、全員の同意書をそろえることが第一歩になります。

②財産目録は正確に

裁判所への申し立て時には本人の財産目録を作成しますが、独自の判断で不正確な目録を作成しないようにしなければいけません。

例えば本人の口座から家族分の生活費などを支出しているから目録に記載しない方がいいかもしれない、などとして不正確な財産目録を作成してしまうケースがあります。

これがバレると当然裁判所の心証は悪くなりますから、第三者の後見人が選ばれる可能性が高くなります。

財産の所在が不明なものがあれば、正直に「不明」と記入して構いませんが、財産隠しは決して良い結果を生みません。

③家計を分離しておく

上記②で見たように、不正確な財産目録を作成しないようにしなければなりませんが、実際には本人の財産を扶養義務のある人以外の生活費に使っているケースはあります。

本人が扶養義務のある人物のためにお金を支出するのは構いませんが、それ以外の人にお金を使うことは、必要ない目的のために本人のお金を使っていることになり、財産管理ができていないと判断されます。

そのままですと裁判所の調査で通帳を確認され使途を聞かれた時にバレてしまいますから、裁判所に申し立てる以前から、本人及びその扶養義務のある人と、それ以外の家族の家計をしっかり分けておくことをお勧めします。

家計を別にしておけば財産隠しをする必要もなく、堂々と正確な財産目録を作成して提出できます。

④後見制度支援信託や後見制度支援預金を利用する

本人に流動資産が多くある場合、後見人の使い込みなどのトラブルを防止するため、裁判所が後見制度支援信託や後見制度支援預金の利用を促してくることがあります。

どちらの制度も、日常で必要になる生活資金以外の流動資産を信託銀行や信用金庫、信用組合などの金融機関に預けておき、簡単には使えないようにするものです。

どうしてもお金が必要な理由が生じた時にだけ、家庭裁判所の許可を得てお金をおろして活用することができる仕組みで、財産の使い込みを防止できます。

この制度の利用を促されても、必ずしも受け入れなければならないわけではありませんが、拒絶すると裁判所は「本人の財産が使い込まれる可能性がある」と考えることになります。

そのため第三者後見人を選任する理由になりますし、仮に親族が後見人になったとしても、別途後見監督人を付けられる可能性があります。

家庭裁判所での面接に備える

申し立て手続きの中では、裁判所の調査官との面談が行われます。

推薦された後見人候補者はこの面談の中で、書類だけでは分からない人となりや信用性、あるいは健康状態などを見られることになります。

後見人として本人の支援事務を誠実にこなすことができそうか、という視点で評価されることになりますが、面接の際には自信をもって堂々と臨むようにしてください。

「他人の財産管理を正確にこなすのはかなり大変ですよ。大丈夫ですか?」などと不安をあおるような質問がくることもあるので、慣れていないと動揺してしまうかもしれません。

「そう言われると、大丈夫かなあ・・」などと答えてしまうと「自信なし」と取られて不利になりますから、「大切な父の財産ですから、子である自分がきっちり守ります。家計も分けて管理しているので問題ありません。」と自信をもって答えるようにしましょう。

申し立て手続きを弁護士等の専門家に依頼する場合、面接の練習を手伝ってくれることもあるので相談してみましょう。

親族後見人の報酬

もし親族が後見人に選ばれた場合、後見人の判断で報酬を受け取ることもできますし、受け取らないこともできます。

後見事務の報酬については、家庭裁判所に報酬付与の申し立てを行い請求することになっているので、報酬が必要なければ請求をしないことで無償とすることができます。

報酬金額については、本人の財産の多寡によりますが大体月額2万円程度が目安になります。

本人の財産が多く、1千万円から5千万円程度ある時は月額3万円~4万円、本人の財産が5千万円を超える場合は5万円~6万円に増額することもあります。

これとは別に、不動産の売却など個別の手続きを行った時には別途の報酬を請求できることもあります。

親族以外の後見人が付いた場合の報酬

親族以外の第三者後見人が付いた場合、その者が無報酬でよいと考えることはまずないでしょうから、報酬付与の申し立てを行うと思われます。

その際の報酬目安は親族後見人と同じですので、前項の費用感が相場となります。

 

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